PROJECT STORY

Driving the Edge

"ARC Line"

流動型セル生産方式“ARCライン”

クルマづくりは、創る喜びと共にあれ。

A00

お客様への感動No.1のクルマを賢く早く届ける、
カッコいい生産現場

STAFF

小佐々 伸大

NOBUHIRO KOZASA

ホンダエンジニアリング・アジア(タイ)駐在 技師
2000年入社 大学院工学研究科 物質工学 修了
◎入社後、四輪生産技術のボディ溶接領域を担当。米国アラバマ工場のラインの立ち上げ企画や、Hondaの連結子会社・八千代工業(株)の工場リニューアル等に従事。◎2010年、四輪車体組立領域へ異動。2013年10月より、ASEAN地域の生産技術開発拠点であるホンダエンジニアリング・アジア(タイ)に駐在。

STORY

“人間尊重”のプロセス革新。

SCENE01

「この組立ライン、ほんと、カッコいいよね!」「仕事が楽しいよ!」。2016年3月から四輪完成車の生産を開始した、タイのプラチンブリ工場。タイ人のアソシエイトたちの会話が弾んでいる。「この組立ライン」とは、四輪完成車で世界初となる新発想の車体組立ライン。その名を“ARC(アーク)ライン”という(※注1)。

この独創的な方式を構想した当初、小佐々は周囲から懐疑や批判に晒された。車体組立は、業界共通で永く抜本的な体質改革が行われてこなかった領域。既存概念が根強いだけに、向かい風も強かった。

全ての始まりは2010年、小佐々が車体溶接から車体組立へ生産技術開発担当領域を異動したばかりの頃のこと。当時、生産性の効率化のために、全社の方向性として組立工程の自動化を進めていこうという議論が真っ盛りだった。「納得いきません」。小佐々が周囲に食い下がった。「溶接から来たお前に何が分かるんだ!」と迫る人もいたが、怯まなかった。溶接などの“加工”を行う工程であれば、機械による高速高効率化を突き詰めていくことも可能だろう。けれども“組立”は、複数のアソシエイトが多様な部品を選んで取り付け、その手で精緻にアジャストしていくことが必要な工程だ。小佐々は溶接工程を長く担当する中で、現場へのロボット投入を数多く経験してきた。それだけに「自動化一辺倒で考えちゃいけない、知恵を絞ればきっと他の方策がある」という想いも強かった。

Hondaは“人間尊重”と、買う喜び・売る喜び・創る喜びの“3つの喜び”を基本理念に掲げている。生産プロセスの革新も人間を主軸に考えるべきではないか?創る喜びなくして買う喜びがあり得るのか?小佐々はたとえ孤立無援であっても、人間が主役の革新的プロセスを実現しようと意を決した。そしてまず国内の四輪工場へ赴き、現行の組立プロセスに目を凝らした。ラインのサイズに比べて人の密度が相当低く、ロボットが高密度で設置される溶接工程とはかなり異なる印象。コンベア上を流れる車体に対して、基本的に1人のアソシエイトが1つ2つ程度の部品だけを取り付けている。その作業が終わると、遠くにある部品棚へ部品を取りに行っている。次第に革新の着想が湧いてきた。

Hondaのカッコよさを、磨く。

SCENE02

小佐々は次のような構想を立てた。人/車体/部品を相関不動とし連続的な組付け作業を実現する“流動型セル生産方式”による革新プロセス成立への挑戦である。1台の車体の前後左右に組立作業アソシエイトを配して1つのチームとし、各アソシエイトが広範囲の工程を担当して複数の部品を連続作業で組み付けられるようにする。必要となる部品は全て手元へ配膳し、人の移動ロスによる負担を省く。1チームの構成人数は最終的に4人と決めた。その4人が、コンベア上の台車ユニットに車体を囲むようにして乗り込み、車体と一緒に移動しながら手元にある部品を連続的に取り付けられる仕組みだ。これによってアソシエイトの人間特有の共創力を最大化でき、組立効率を大幅に高められる。

このように構想を立てていく過程で、小佐々は頼もしい理解者を得ていた。組立領域の生産技術者の大ベテラン、堤田である。小佐々を強力にバックアップし、鈴鹿、埼玉製作所の工場長に構想と、その改革の真意を的確に伝達してくれた。それにより両工場長の心が動き、製作所内でも真意を理解する仲間が増え、大きな山が動き始めた。小佐々たちがめざしたのは“カッコいい生産現場”。Hondaの現場には、魂を吹き込むように品質を磨き上げる職人気質の人がたくさんいる。そのカッコよさを、創る喜びの掘り下げによって、さらに育んでいきたかった。1人が広範囲の組立作業を担当できるこのラインでは、全体志向の創る喜びを得られる。幅広い製造技能の習得も可能だから、人材育成の面でも効果を狙える。例えば生産現場のアイデアを設計部門へフィードバックできるような、熟練技能者も増えるだろう。

2011年から約1年をかけ、鈴鹿製作所で初期検証。やがて、埼玉製作所で本格的な実証試験期間を迎える頃には、タイのプラチンブリ工場への導入をめざすことが決まった。埼玉での実証試験は、ラインを実際に動かしての実機確認。そして、この実証試験期間中に、大きなブレイクスルーをしたのが埼玉製作所とホンダエンジニアリングの若いメンバーたちだった。ARCラインを支える重要システムが2つある。タブレット端末によって、連続作業の組み付け順序や進捗状況を画像と音声でアソシエイトにガイドする『PLUTOシステム』。取り付けるべき部品を組み付け順序に則って、アソシエイトの手元へ適切に供給する『DiSCシステム』。いずれも20代半ばのメンバーたちが、この実証試験期間中に発案してくれたものだった。小佐々は彼らに開発を一任した。

創る喜びの拡散をめざす。

SCENE03

2013年10月から、小佐々はタイに駐在した。約半年をかけてラインをつくり、タイ人のアソシエイト全員と量産想定の実機検証を進めていく。徹底的にコミュニケーションを重ねた。小佐々が折に触れて語ったのは、創る喜びについてだ。定性的な価値だけに共通認識の形成が難しい。小佐々は例え話で本質を伝えた。「プラモデルがなぜ売れるか?飾るだけなら完成品を買えばいい。人は1つ1つの部品から全体を組立てることに、喜びを感じるんだ。このARCラインは、その潜在的な欲求を満たしてくれるものだ」。

小佐々の駐在中、日本の若手メンバーたちも頻繁にタイに出張してきた。そして、またまた新しいアイデア提案者が登場してくれた。小佐々に代わって日本でのPL(プロジェクト・リーダー)となった女性技術者、小松である。彼女は舞台照明などに関する造詣が深かった。「南国の人たちにとって、自然に心が前向きになるような空間にするべきだと思います。暑いから暖色系の色でなく涼しい色を使って、ここにはこう照明を当てて、コンベアの材質も木にして……」。小佐々は目から鱗が落ちる思いだった。彼女のアイデアを全て採用した。繊細な感性が加わったことで、ARCラインは格段に輝きを増した。

プラチンブリ工場で量産を始めたARCラインは、組立効率を約10%向上させ、生産コストも低減させた。今後どんどん世界へ展開されるかもしれない。しかし小佐々が最も期待しているのは、ラインそのものの世界展開ではない。ARCラインで働くアソシエイトたちが創る喜びを深め、成長し、その体験を自分の生産現場を越えて拡散していくような、人から人への伝播だ。すぐに効果が出てくるものではないだろう。だが、種は確実に蒔かれた。プラチンブリ工場のARCラインに配属されたアソシエイトたちは、ARCラインで車創りができることを誇りに感じると胸を張る。その意識やモチベーションが、他のラインにも波及し、工場全体に活気があふれてきたことが分かる。今この地で、革新の芽が息吹きはじめた。

※注1:“ARC”とは、Assembly Revolution Cellの略。